メルト・イリュージョン
「あの…その指輪は、何ですか?」
「ん?」
いつの間にか、私の分の目玉焼きにまでフォークを突き刺していた彼は、まだ口に残っている分をもぐもぐと咀嚼(そしゃく)しながら、首を傾げた。
さっき気付いた。彼に、水を差し出された時……その左手の薬指に嵌まる指輪を。
「何で?」
「え…」
「何で気になるの?」
ところが、思いも寄らない切り返しをされて、私は返答に詰まった。
な、何でって……
「いえ、興味本意で…‥」
左手の薬指にしてるから。
「鍵穴がついてるから?」
見透かすように言われたその一言に、私の心臓がドキンと凍りついた。
「か、鍵穴…?」
乾いた笑いをこぼし、その場を取り繕う。
怪しまれないようにソッと視線だけを彼の手元に移すと、確かにその指輪には、小さな鍵穴らしき穴があった。