メルト・イリュージョン
「何か飲む?」
「わっ!?」
すると、また音もなく背後に現れた彼に、私は驚いて飛び上がる。
「…‥何?」
「どうして、毎回気配もなく現れるんですかっ!?」
心霊とかポルターガイストとか、そう言ったビックリ衝撃ものにめっぽう弱い私は、ほとんど涙目でそう訴えた。
「ああ、ごめん。じゃあ、今度からはちゃんと気配出すから」
そんなに、簡単に出し入れ出来るものなんですか…っ!?
彼には、隙がない。
いや、違う。隙だらけなのに隙がない。
…そんな感じ。
「じゃあ、コーヒーでいいね」
「…あるなら、最初から言って下さい」
台所には、卵とベーコンと小麦粉しか見当たらなかったから、他に何も無いのかと思っていたのに。
しかし、彼はそんな私の意見なんかにも耳を貸さず、きれいさっぱり無視して、再びキッチンに向かう。
「………」
ここまで無視されると、何だか逆に清々しいかも。