メルト・イリュージョン
「……はぁ…」
笑えてしまうくらいに、彼に翻弄されっぱなしの私は、自分の情けなさに小さく溜め息を吐く。
気分を変えようと室内を見渡したけれど、真っ昼間なのにブラインドで閉め切られた部屋は、どんなに間接照明で明るく照らされていても、心なしか陰鬱とした空気が漂っている。
ここで、一体何人の猫たちと彼が、共に時間を過ごしたのだろう──。
さっき聞いた話によると、彼はここに越して来てから約半年が経つと言った。
床は空のペットボトルやお菓子の袋で埋め尽くされているけれど、半年間そのまま放置していたとは思えない程度にはきれいだ。
と言うことは、かつては誰かが定期的に掃除をして──…
「……やめた」
考えると、すぐに鬱になりそうなので、私は思考を放棄した。
彼が今まで、私以外のどんな猫と何人と暮らして来たかなんて、考える必要がない。
だって、よくよく見ると、部屋中のあちこちにピンクやら白やらの下着が、これみよがしに置かれている。
きっと、これは今までの猫たちの〝次の猫〟に対する当て付け──。
確かに〝自分が存在した〟と言う証を、次の見も知らぬ猫たちに知らしめるために施した、女の陰険な爪痕。