メルト・イリュージョン
太陽が嘘の始まり
ノックをしてみたけれど、反応がない。
ここまでは、予想通り。
「…‥すみませ~ん」
試しに、控えめな声で呼びかけてみたけれど、やっぱり応答なし。
もちろん、元ガソリンスタンドの造りと言う事もあって、ドアスコープもなければインターホンもない。
……困った。
さて、ここからどうするべきか。
ヒビが入り放題で煤けた窓は、ブラインドで締め切られていて、中の様子を窺えない。
至るところが錆びだらけで、不用意に手を触れるのも億劫になる。
「……参ったな」
まだここに到着してから5分も経っていないと言うのに、私は早くも弱音を吐いて、宙を仰いだ。
ガソリンスタンドの屋根の間から見える青空は、憎らしいほどに澄み渡っていて、全身に降り注ぐ紫外線のシャワーが目蓋の裏を通して私の視界を赤く染め上げる。
どこからともなく聞こえてきたトンビの嘶きが、上空を旋回するその姿と重なった。
この街の静けさは、なるほど確かに彼の好む〝孤独〟と〝静寂〟に彩られている。