メルト・イリュージョン
「……う…‥、ん…」
その時、部屋の隅から微かな寝息が聞こえて来て、私はハッと身を強張らせた。
しばらくの間、息を殺してその方向をジッと凝視するが、それ以上の物音は何も耳に届いては来ず、また人が動く気配もないので、一先ずは小さく息を吐き出して安堵する。
ここからは、慎重に。
床に散乱するあらゆる物にぶつからないように細心の注意を払いながら、私はゆっくりとその場所へ近付いていく。
部屋の作りは、元の事務所兼コンビニエンスストアのまま、壁際にはかつて商品が陳列されていたであろう棚が並び、その一方にはソファやテレビや事務机と言った家具が乱雑に置かれていた。
さっき物音がしたのは、そのソファやテレビがある辺り。
もしかしたら、あそこに彼がいるかもしれない……。
高まる緊張に、知らず知らずに生唾を飲み込んでいた。