あわ玉キャンディ
「おかえり。」
リビングのドアを開けてすぐに、霧崎さんの声が耳に入った。
「ぼーっとしてないで、入れば?」
なかなかリビングに足を踏み入れようとしないあたしに、いつもみたいな口調でそう言う。
...なんで、こんなに普通なの?
まるで、さっきのことがなかったみたいに。
「それ、なんか作ってくれんの?」
提げているスーパーの袋を指差して、嬉しそうにやわらかく微笑む彼。
いつもなら、微笑み返して「今すぐ作りますね!」って言えるけれど...
さっきのこと、なかったことにはできない。
見て見ぬふりはもうできない。
だからあたしは、いつもみたいに返すことができなかった。