あわ玉キャンディ


バッグを持っているのも忘れた。

あたしの手から逃れたバッグは、フローリングの上にボトリと音を立てて落下した。



「またな、って言っただろ?」


唇の両端を持ち上げて、答えた彼。

呆然と立ちつくすあたしに、


「おいで」


とひどく優しい声でそう言って、腕を広げた。




言いなりになってしまったかのよう。

あたしは、コートを脱ぎもせずに、ゆっくりと彼に近付いてゆく。


あまりのスローさに、彼は腕を広げたまますくっと立ち上がって、近寄るあたしをぎゅっと抱きしめた。



< 67 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop