難しい恋は遠慮させてください
私のすぐあとから他の女子の声が会場内に響いた。

深川のサーブは向こうのコートに入った。

声援に驚いたのか、C組の男子はボールを打ち返せなかった。

一点。

C組との差が縮まった。

「やった…!」

私は二階の応援席の柵から半分身を乗り出して、小さくつぶやいた。

その時、アイツが振り向いたんだ。

驚いたような、喜んでいるような、複雑な表情のアイツと目が合う。

「リオ!?危ないから!」

愛美にひっぱられてはっとする。

「あっ…うん。そうだね」

私は冷静さを取り戻して後ろに下がる。

周りの視線が少し痛い。

でもそれより…
私の心臓のほうが痛かった。

ダメだよ…

忘れるんだから…

静まれ静まれ私の心臓。

もう一度会場を見る。

目がやっぱりアイツを探してる。

コートの右はじにいる深川とまた目があった。

ニッと笑って首をすくめてみせる深川。

久しぶりに見た深川の笑顔にまた胸が痛んだ。

その時ボールがコートに入ってきた。

「深川行ったぞ!」

「あ?うわっ!?」

ボールが深川の真横に落ちた。

「何やってんだよバカ!」

私は前のノリで深川に向かって叫んでいた自分に驚いた。
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