ストレート【調整中】
―ねぇ、キリ
誰もあんたを責めないよ。
あんたは
本気の兄に対して
本気で投げただけだ…。
それは、ピッチャーとして誇りにすべきなんだ。

…悪いのは
キリの才能を妬んだ

…神様だよ。






桐は兄に一礼し、
グランドを馴らした。

誰もが息を呑む
緊迫した空気だった。

耳も肌も目も…
全てを彼らに集中させる。

雨は
止む事を知らず、桐や兄を濡らしてゆく。


桐はここまで来て
序盤の様な球の速さを見せた。

前に練習で見せてもらった桐のストレートは速く、凄い耳鳴りがした。

この球はきっと
あの時よりもっと速いのだろう。

兄に嫉妬した。
出来れば、叶うなら
あたしがそこに立ちたかったと。

兄も粘った。

この勝負で何球、放っただろう。

桐が体制に入る。
指から抜ける瞬間、
雨で緩んだ足場がぐらつき、
桐はその場に倒れ込んだ。

そして…
体重を乗せた
桐の自慢のストレートは
兄の右肘へと

…当たってしまった。


…事故、だった。


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