ストレート【調整中】
―屋上

ザーーッ…

『キリ…野球、しよ?』

ザーーッ…

雨のノイズ音の中に
確かに何度もリピートされる声。

肩は震え、雨に濡れ
頬を濡らしながら
俺の瞳を強く見つめて

弱いけど、芯のある声で
確かに公は俺に言った。

そんな彼女を
俺は何故か冷静に
とても…
とても綺麗だと思ったんだ。


公が桐と呼んだのは
何年ぶりだろうか。

いや、言葉を交わしたのも
久しぶりなくらいだ。

あの日以来
俺らは名前では呼ばなくなっていた。

それぞれの
心に閉ざされた部分を
開かれないように…。

瞳も合わせず
会っても知らないふりをした。
見てみぬふりもしてきた。


確かに
俺らの間には亀裂がうまれていたんだ。


なのに…
あの頃の様に

あの声で公が
桐なんて言うから


込み上げてきたものに
歯止めなんか効かなくて


…涙がでたんだ。



< 20 / 53 >

この作品をシェア

pagetop