ストレート【調整中】

俺は『分かる』とか
相手を決めつける言葉は好きでは無いけれど

なんとなく分かるんだ

野球をしたくない訳じゃない

もっと簡単な別の理由

きっとあいつは―…


瞳を伏せ、掌を強く握り締める。

もしそうなら、俺には何も出来ない。

これはあいつが自分で切り抜ける問題だ。


「…今のまま、復帰しても速くならないって意味か…?」

瞳を床から保健医に向け、掠れた声できいた。

保健医は少し笑って、俺の頬から手を放し、自分の口元へと持っていく。

「…さぁね。」

「お前のこと、信じてもいいのか?」

保健医は俺の問いに返事を返さなかった。

変わりに、不敵な嫌な笑みじゃなく、綺麗な微笑みを見せた。

硝子玉の瞳が少しだけ、色を変える。


「…わかったよ。」

俺は一つ溜め息を溢すと、保健医を押し退け、背を向ける。

「…いいのか?俺を野放しにして。」

俺の背中に、保健医がポツリと問いかける。

「…先生と俺のキリを"マウンドに立たせたい"と言う気持ちだけは同じようだし。どういう魂胆かはしらねぇけど。…俺が入るべきでは無いと思う。だったら、俺はキリがいつでも投げれるように、構えとくだけだよ。」

俺が桐に出来ること。

俺だけにしか出来ないこと。

きっと、あるから―…


< 39 / 53 >

この作品をシェア

pagetop