ストレート【調整中】
どちらも口を開かず、テレビの予め用意されたとしか思えない陽気な笑い声ばかりが耳を掠める。
それも暫くの内に消えた。
「…また桐か。」
兄の低音で掠れた声に、思わず下に向けた視線を兄へと向ける。
そこには想像してたよりずっと優しい目をした兄がいた。
「…あいつ、本当に頑固だよなぁ。まだ野球してないんだろ?」
口調は柔らかいけど、声が震えている。
視線を移す。
黄金に輝くトロフィーが飾られていたはずの戸棚は寂しげに埃をかぶっていた。
ただ一つ。
飾られた写真たて…。
目を瞑る。
考えては駄目だ。
「…いいよ。話してみろよ。またあの時みたいに誰かの後ろに隠れて、自分の気持ちに嘘つく気か?」
ドクンッ…。
脈打つ心臓。
どっと出る汗。
兄の方が見れない。
だけど想像はつく。
―あの時。
…なっては駄目だ。
唇を噛み締め、握り拳を作ると、兄を睨んだ。