ストレート【調整中】
「…桐を解放して。」
強い口調で言った。
兄の瞳をしっかり捉えて。
あの時の呪縛から桐を―…
「それは俺の問題じゃない。
ましてや、お前の問題でもない。
桐の問題だ。」
風が吹く。
寒いのに熱が冷めない。
内臓をどろどろとしたものが渦巻き、心蝕む。
「桐の時間は停まった…あの日から。あたしの声は届かない。聞こえないの。…お兄ちゃんじゃなきゃ…桐は進めない。」
分かってる―
自分がどれだけ身勝手で無神経で
兄を傷つけているか…。
野球を捨てざる得なかった兄―
野球を自ら捨てた桐―
誰よりもあの時を
思い出したくないのは兄だ。
「停まったなら…停まったままでいればいい。あいつは、ただ拗ねているガキと同じだ。ただお前みたいなのに、声かけて欲しいだけなんだよ…。…もぅ、あいつの事は忘れろ。」
私の目を見ないで
落ち着いた声で言った。