ストレート【調整中】
―保健室


…鼻につく香りに
うっすら瞳を開ける。

その香りにはっきりとしない光景が
どんどんと鮮明になっていく。

白い世界―

白い世界があたしを包んでいる。

あたしは
重い身体を上げた。


「気付いたか。」

カーテンから、保健室の先生が顔を出す。

壁も天井もベッドも
白、一色の世界の正体は
保健室だったのだと気づく。

あの香りは
オキシドールの香りか…。

それにしても
あたしはそんなに病気にならないから
初めて保健の先生を見た。


整った顔に
細くてゴツゴツした身体。
サラサラな髪
大人っぽい色気があって

綺麗な先生だと思う。


「お前、屋上でぶっ倒れてたよ。あっ、俺が着替えさせたんじゃないから、安心しろ。」

先生は見た目とは似合わない
人懐っこい笑顔を見せた。

「…はぁ。」

先生の笑顔に驚きながらも
あたしは下に目線を落とす。

…あたし、ジャージだ。

制服は
雨に濡れてしまったのだろう…。

先生はあたしに
背を向けて

仕事をしているのだろうか?
金属と金属が
こすりあう音がする。

雨の音を聞いていたせいか
居心地の良い音だと思った。


「…お前の彼氏?あの橘っていう奴。」

先生が急に沈黙を破って話かける。

金属音が止まる。


「…?」

先生はあたしに背を向け、コーヒーを注ぎながら話を始めた。


先生が言うには、

『橘は倒れたあたしを
抱いて保健室に連れて来てくれた』

らしい。


……キリ、いたんだね。


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