楽園の炎
しばらくとぼとぼと、回廊を歩いていたナスル姫は、中庭に降りる階段に座り込んだ。
ぼんやりと綺麗に整えられた庭を眺めていると、不意に植え込みの向こうに、大柄な人物が姿を現した。

よく焼けた肌に、顎には髭が、まばらに生えている。

---あら、あのかたは確か、侍女頭の息子さん---

憂杏は、きょろきょろと辺りを見渡し、そのままがさごそと植え込みから出ると、ナスル姫のほうへ歩いてきた。

「これは姫君。こんなところで、何をしておられる?」

階段の下に跪き、憂杏はナスル姫に声をかけた。
階段の下といっても、三段ほどしかないので、すぐ近くだ。

「朱夏のご機嫌伺いに行ったんだけど。今日は会えなかったわ」

しょぼんと答えるナスル姫に、憂杏は立ち上がると、いきなりわしわしとナスル姫の頭を撫でた。
姫が驚く。
身分の違いなどより以前に、このように乱暴に頭を撫でられたことなどない。

「姫さんまでが、そんな元気がなくなってどうする。なに、大丈夫だよ。朱夏だって、そんな弱い奴じゃない」

頭に置かれた大きな手に、ナスル姫は不思議な感覚を覚えた。
同時に、何だか心が明るくなる。
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