楽園の炎
「わからん・・・・・・。あの者が、自分で素性を明かさないなら、このまま商人ということで、裁可が下ることになろう。だがこのままでは、どう考えてもあの者には不利だ。何故そのような危険を冒してまで、身分を偽る必要があるのだ。名乗れないような身分なのか? もしくは、本当に商人なのか・・・・・・。・・・・・・私も、あの者は商人ではない、とは思うのだが」

片手で己の額を覆う炎駒に、桂枝は何故、という目を向ける。

「今日の夕刻、取り調べにあたった者から聞いたのだが」

前置きしてから語った内容は、さらに炎駒や桂枝を混乱させるものだった。

取調官に対し、ユウは特に命乞いをするわけでもなく、どこか傲然と言い放ったというのだ。
『俺を確実に死罪にしたいのなら、ククルカン皇太子の到着前に、さっさと決めてしまったほうがいいぜ』と。

「どういうことなのでしょう?」

桂枝も、首を傾げる。
先程、朱夏が寝付く前に聞いたことが思い出される。

「あの者は、ククルカン皇太子殿下の勘気を被っていると、朱夏様は仰っておりましたが」

「何? どういうことだ?」

「あの者が、自分でそう言ったそうです。自分は、皇太子殿下の勘気を被っている人間だから、と」

しばらくお互いを見つめる二人の顔には、ありありと困惑の色が浮かんでいる。

罪人なのだろうか。
だがそれなら、何故ククルカン皇太子殿下が到着する前に決めないと、確実ではないというようなことを言うのか。
皇太子殿下が到着してしまえば、助かるかもしれない、という意味に取れるではないか。
皇太子の勘気を被っているほどの罪人なら、わざわざそんなことを言わないでも、死罪は確実だろうに。

「・・・・・・わからんな・・・・・・」

結局炎駒は、再び片手で額を覆い、大きくため息をついた。
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