楽園の炎
「父上。ユウの取り調べは? 何か、動きはありましたか?」

夜、久しく聞いていなかった娘の、張りのある声に、炎駒は内心安堵のため息をついた。
部屋に入ってきた朱夏は、少しやつれはしたものの、随分元気を取り戻したようだ。

炎駒は朱夏に椅子を勧め、自分も向かいに腰を下ろした。

「相変わらずだ。彼は、特に話すことはないという態度を崩さない。取調官も、後は皇太子殿下がお着きになってからでないと、埒があかないと言っている」

「では、皇太子殿下がお着きになるまでは、裁可は下さないのですね? 切り上げて、さっさと裁くということは、ないのですね?」

勢い込んで言う朱夏を、炎駒は手で制した。

「落ち着きなさい。そもそも、王太子暗殺未遂という大事件を、勝手に裁けるわけはないのだが、まだ予断は許さん。何せ、当事者が葵王様なのだ。無理矢理裁くこともできよう」

「そんな・・・・・・」

朱夏の表情が曇る。
炎駒は立ち上がり、戸棚を開けて、自らグラスを取り出すと、そこに琥珀色の酒を注ぐ。

「・・・・・・父上。あまり強い酒は、お身体に良くありませんよ」

眉を顰める朱夏に、炎駒は少し笑った。

「そんなにたくさん飲むわけではないよ。でも、そうだな。注意しよう」

素直に従う炎駒に、朱夏も少し表情を和らげる。
ナスル姫が来て以来、朱夏と父の間の溝も、急速に埋まったようだ。
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