楽園の炎
「朱夏様!」

稽古場に入った途端、兵士たちが声を上げた。
皆、嬉しそうにぱらぱらと駆け寄ってくる。

あれ以来、足を運んでいなかったが、いつまでも鬱々としているわけにもいかない。
とにかく元気を出そうと、久しぶりに剣を手にしたのだ。

「お元気そうで、何よりです!」

「やはり、朱夏様がおられないと、今ひとつ皆の士気が上がりません」

口々に言う兵士たちに囲まれ、朱夏は稽古用の剣を振り、型を確かめた。

「ありがとう。とりあえず、しばらくさぼってたから、お手柔らかに頼むわ」

言いながら、隊長に向き直る。
兵士たちを束ねる隊長は、一つ頷くと、自身も剣を手に取った。

中央で向かい合い、礼。
一度剣先を触れ合わせ、離れる。

開始の儀礼の後、すぐに隊長が打ち込んでくる。
朱夏は後ろにさがりつつ、避ける。
隊長の剣が横様に払われた途端、朱夏は素早く剣を動かし、隊長の剣を叩き落とした。
そのまま、空いた片手で隊長の首筋に手刀を叩き込もうとするが、隊長はその手を掴み、朱夏を豪快に投げ飛ばす。

わっと歓声が上がったが、朱夏は倒れることなく、くるりと回って着地すると同時に地を蹴り、隊長に頭から突っ込んだ。

「おうっ」

隊長が踏ん張り、朱夏の帯を掴んで引き剥がそうとする。
が、腹に当たる感触に気づき、身体の力を抜いて手を挙げた。
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