楽園の炎
「あたしにも、よくわからないのよ。でも、確実に違うの。それはわかるの。葵のことはね、多分、もうあたしの中で、家族なの。凄く大事な人には、変わりないよ」

「でも、朱夏は僕を拒んだよね。本当の家族には、なれないの?」

朱夏はちょっと考えた。

もし、ユウに出会わなかったら。
ユウに出会うことなく、葵が朱夏を求めたら、自分はどうしただろう。

「・・・・・・わからない。でも、無理だと思う。あたしには」

朱夏は一旦言葉を切った。
言うべきかどうか、逡巡する。

葵は黙って、朱夏の言葉を待った。

「葵よりも、大事に想う人が、できてしまった」

しばらくの沈黙の後、葵は視線を落として呟いた。

「どうして商人如きが、そこまで朱夏の心を捕らえたのかな。あいつよりも、僕のほうが、確実に朱夏を幸せにできるよ?」

単純に考えれば、葵の言うとおりだ。
世継ぎの王子と商人など、勝負にもならない。

「・・・・・・朱夏はさ、僕を恨んでいるの? 無理矢理僕のものにしようとしたから? さっき、凄い殺気だったよね。僕を、心の底では殺したい程憎んでる?」

朱夏は首を振った。

確かに、あの夜のことは許せない。
あのことを踏まえた上で、力で朱夏を押さえ込もうとした葵に、憎悪にも似た感情が湧き上がったのも事実だ。
それが、殺気に繋がったのだろう。

だが、やはり朱夏にとって、葵は特別だ。
どうしたって、心底憎むことなどできない。

許せないけど、憎むこともできないのだ。
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