楽園の炎
「うん。下が草だから、潰れてないわ。良かった。はい」

差し出された黄色い実を、男は受け取りつつ、まじまじ見つめる。

「・・・・・・食い物なのか?」

「美味しいのよ。甘くて、果汁たっぷりで。皮剥かなきゃね」

手で剥けるかしら、と言う朱夏に、男はいまだに木に刺さっている、自分が投げた短剣を抜いて差し出した。
朱夏は渡された短剣で、器用に皮を剥くと、再び男に差し出した。

「はい。ほらっ早く食べて! 汁が~~っ」

口に押し込む勢いで突き出された黄色い実に、男は朱夏の勢いに押されるまま、かぶりついた。

「いてっ!」

がつん、と歯が途中で止まり、男が顔をしかめた。
あ、と朱夏も一瞬固まる。

「ごめん。言い忘れたけど、種が大きいのよね」

「先に言ってくれ」

ぐい、と乱暴に果汁のついた顎を拭い、男は朱夏からマンゴーを受け取ると、今度は注意して食べ始めた。

「それだけじゃ、お腹いっぱいにならないでしょ。ちょっと待ってて」

「あ、おい!」

男を置き去りに、朱夏は立ち上がったかと思うと、森の中へと駆けだした。

しばらく朱夏の消えたあとを見つめて唖然としていた男は、手の中のマンゴーに目を落とすと、少し首を傾げた。

「町娘・・・・・・でもなさそうだな。水の精霊・・・・・・?」

呟き、男は僅かに口角を上げた。
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