楽園の炎
「あたしだって、葵のことは、ずっと好きだったもの。そう簡単に、嫌いにはなれない。あのことは許せないけど、葵を憎むことはできない。だからこそ、辛い」

上手く言葉にできなくて、朱夏はもどかしそうに草をむしった。
むしられた草の切れ端が、風に飛ばされていくのを目で追う葵に、朱夏は姿勢を正して向き直った。

「葵、お願い。ユウを、殺さないで」

真っ直ぐに葵を見て言い、朱夏は、がばっと頭を下げた。

「お願いします」

目の前で平伏する朱夏を、葵は見つめた。

朱夏が、他の男のために、必死になっている。
葵は自分の中に、今まで知らなかった感情が芽生えるのを感じた。

「僕のものになるのなら、あの者の罪を許すと言ったら、朱夏は僕の寝所に来てくれるかな」

葵の呟きに、朱夏の身体が強張った。
だが、顔を上げた朱夏は、強い瞳で葵を射抜く。

「断るわ」

きっぱりと言った朱夏に、少しだけ葵は目を見開いた。

「そこまでするほどの価値はないのか。それとも、そんなに僕のものになるのは嫌?」

少し自嘲気味に言う葵に、朱夏は首を振る。

「違うわ。そんなの、葵のためにもならないもの。葵が欲しいのは、そんなあたしじゃないでしょ」
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