楽園の炎
葵は呆気に取られたように、朱夏を見つめていたが、不意に表情を和らげた。
一つ、息をつく。

「・・・・・・そうだね、確かに。そんな抜け殻の朱夏は、僕の好きな朱夏じゃない。僕が好きなのは、今目の前にいる、自分の意見をしっかり言い、自分の意思で行動する、強い朱夏だ」

立ち上がり、ぱんぱんと服を叩く葵は、そう言った後、ふと表情を消した。

「僕は、結構意地悪みたいだ」

前の泉に顔を向けたまま、無表情で言う葵に、朱夏も動きを止めた。
嫌な予感が、心に広がる。

「朱夏が必死になればなるほど、あの男が許せなくなるよ」

ぽつりと呟いた葵に、朱夏は息を呑んだ。
目の前の葵が、あの夜、寝台に朱夏を押しつけたときのように、恐ろしくなる。

葵はゆっくりと、朱夏に顔を向けた。

「朱夏は僕も、大事だと言ってくれたね。でも、あの商人が現れたから、僕は恋愛の対象外になってしまった。なら、あいつがいなければ、朱夏は僕を受け入れてくれたのかもしれない。・・・・・・今からでも、その地点に戻してみる価値は、あるんじゃないか?」

朱夏は、声が出なかった。
まるであの夜の再現だ。
何故葵の声も表情も優しいのに、こんなに怖いのか。

震える朱夏に優しく微笑み、葵は王宮内に去っていった。
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