楽園の炎
日が落ちた頃、にわかに王宮が騒がしくなった。
夕餉を運んできたアルが、朱夏に耳打ちする。

「皇太子殿下が、到着されたようですわ」

「何だって?」

部屋にいる間は見張りはつかないため、宝瓶宮で仕事をしていた炎駒が、訝しげな顔をした。

「お着きになるなら、出迎えをしなければならないはず。そのようなこと、聞いておらんぞ?」

宗主国の皇太子は、アルファルド王自ら出迎えなければならない。
王といえど、こちらのほうが格下になるのだから。
アルファルド王は、ククルカン皇太子に対しては、臣下の礼を取らねばならない。
そのように大事なことに、一の側近である炎駒を欠くことは、宗主国に対する侮辱になるはずだ。

「どうやら、皇太子殿下自ら、ごく少数で、先に到着されたようです。炎駒様の早馬が、効いたのではないですか?」

炎駒と朱夏が喜色を浮かべたとき、部屋の扉がノックされた。
入れ、という炎駒の言葉を受けて、扉が静かに開かれる。

「炎駒様。王がお呼びです。急ぎ、磨羯宮(まかつきゅう)へ」

磨羯宮は、政治の中心。
王族の住まいでもある、内宮の中央に位置する、最重要機関だ。

「わかった」

炎駒は桂枝に身支度をさせると、朱夏に小さく頷いて、磨羯宮に向かった。
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