楽園の炎
「なるほど、わかった。そのことについては、葵王に非はないと認めよう」

静かに言い、皇太子は立ち上がる。
横にいたナスル姫を伴い、二間からなる奥の部屋に去っていく皇太子を、炎駒は絶望と共に見つめた。

項垂れたまま炎駒が立ち上がろうとしたとき、皇太子が、つ、と振り返った。

「夜も更けた故、王はお疲れであろうな。では、すまぬが葵王殿と炎駒殿。そなたらだけ、こちらへ」

勢い良く顔を上げた炎駒に、葵が何か言いたそうな顔を向ける。
だが、炎駒は気づかぬふりで、皇太子の後に続いた。

奥の間の長椅子に腰を下ろし、皇太子は葵王と炎駒にも、向かい側の椅子を勧めた。
ナスル姫は、皇太子の横にかける。

部屋の中には、四人しかいない。
炎駒に引っ付いていた兵士も、さすがにここまでは、入って来られない。
葵はいるが、炎駒はとりあえず、話をする機会を作ってくれた皇太子に感謝した。

皇太子は、まず葵に目を向けた。

「大きくなられましたな。王の補佐も、問題なくこなしておられるとか。我が父上も、葵王殿にお会いしたいと申しておられる。また我が王宮にも参られよ」

「ありがとうございます」

頭を下げる葵に、皇太子は、ふと気遣わしげな顔になって、言葉を続けた。

「そういえば、暗殺未遂があったとか。見たところ、お怪我はないようだが」

「ええ。殴られ、気を失いましたが、幸い怪我などは致しませんでした。気を失ったのを、暗殺成功と取ったのかもしれません」

「何よりだ。それにしても、王太子暗殺という大胆なことをするような輩のわりに、ずぼらな奴だったのだな」
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