楽園の炎
「女性なのか?」

驚いたように、皇太子が葵を見る。
何と言って良いものかわからず、葵は曖昧に微笑んで頷いた。
が、すぐに真顔になって考えつつ口を開く。

「それは・・・・・・。確かに、考えられないことではないが。だが、何故いきなり朱夏を狙う? 相手はずっと王宮にいたわけでもない、ただの商人ではないか。そのような者が、どこで朱夏を見初めるというのだ」

葵の言うことも、もっともだ。
考えてみれば、朱夏がいつあの商人に会ったのか知っているのは、桂枝から話を聞いた、炎駒だけなのだ。
葵からしたら、あのとき初めて会ったとしか、思えないだろう。

葵から朱夏を助けたということも、夜這いの事実を知らない以上、わからないことだ。
葵は、自分から朱夏を救ったことで、朱夏はあの商人に惹かれたと思っているのだろう。

王太子暗殺という理由も、いきなり乱入してきた男に、昏倒するほど殴られたのだ。
大袈裟ではあるが、葵の考えからいくと、全く的外れというわけではない。
多少の私的感情が入っているのは否めないが、あの商人を死罪とするのは、葵の中では、正当な理由があるのだ。

他の国では、王族や貴族に対し、ほんの些細な粗相をしただけで、手打ちになることもあるそうだ。
王族を殴り倒すなど、立派な不敬罪にあたる。
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