楽園の炎
「商人だと? それは、私が出張る裁判でもあるまい。貴族の謀反などなら別だが。炎駒殿、慎重なのは貴公の良いところだが、今回のことに関しては、私は何も、口を出すことはないと思うよ。娘さんのためにも、死罪にしたほうがいいのではないかね?」

それきり、皇太子は興味を失ったように、食事を始めてしまった。
さらに待ちくたびれたのか、ナスル姫が寝てしまったので、それ以上話を続けるわけにもいかず、炎駒は部屋を後にした。


宝瓶宮に帰ってきた炎駒の報告に、朱夏は糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。

「後はもう、神官の最終裁可に委ねるしかない。だがやはり、商人という身分が不利だ。もう、どうしようもない・・・・・・」

床にへたり込んだ朱夏は、泣いてはいない。
泣くことすら忘れたように、ぼんやりと空を見つめている。

炎駒はそんな娘を抱き上げると、部屋に入り、寝台に寝かせてやった。

何も映っていないであろう瞳に、いつもの強い光が戻ることを、炎駒は強く願った。
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