楽園の炎
ナスル姫の言葉に、朱夏の足が止まりそうになる。
姫が素早く、朱夏の手を引く。

慌ててまた走り出した朱夏は、見えてきた神殿裏の石垣目掛けて加速した。
勢いを付けて、一気に石垣の上に飛び乗る。
後ろを向き、差し出した手を、ナスル姫が掴んだ。

「透明だからわかりにくいけど、刃の部分に、羽のある蛇が刻まれてるわ。そもそもそんな珍しい剣、他にないしね」

朱夏の手を借りて、石垣を登りながら、ナスル姫が言う。
姫が意外に簡単に石垣を登りきると、そのまま反対側に降ろした。
朱夏もすぐに飛び降りる。

「ユウっていう商人の周りには、皇家の物が溢れてる。・・・・・・ちゃんと調べないと」

そう言って、ナスル姫は神殿を見上げた。
今二人がいるのは、神殿の真裏だ。
正面には人が溢れているが、裁判が行われている今も、裏には誰もいない。

「このままこの階段を上がれば、神殿の中を突っ切って、正面に出られますが。あの、神殿を、突っ切りますか?」

神殿の中には、裁可を下す最高神官の他にも、何人か神官がいる。

確かに階段を上れば、葵らがいる場所まで、すぐだ。
神殿を突っ切れば、先程神官がいた、広場の正面に出る。

だが、いきなりそんなところから登場するのは、さすがに朱夏には躊躇われた。

が。
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