楽園の炎
夕日が西の空を染める頃、朱夏は他の重臣たちと共に、内宮の大広間にいた。
炎駒はアルファルド王と共に、皇太子の部屋に呼ばれている。
葵も、ナスル姫もだ。

皆、落ち着きなくざわざわしている。

それはそうだろう。
昼間に処刑されそうになった薄汚い商人は、ナスル姫の兄君---ククルカン皇帝の、第三皇子だったのだ。
つまり、皇太子殿下の弟君。

皆、動揺を隠せない。


神殿の壇上からナスル姫に叱り飛ばされたユウは、諦めたように、身分を明かした。
慌てた兵士が、縛った縄を解く間も、ナスル姫はぎゃんぎゃんと何か喚いていたが、神殿から駆け下りてユウを見上げ、さらに眦(まなじり)をつり上げた。

『まあぁっ汚い! 何て格好、してらっしゃるんです!!』

決まり悪そうに顔を背けたユウの目が、神殿の柱に寄りかかっている朱夏を捕らえた。
しばらくじっと朱夏を見つめていたユウは、はっとしたように、いきなり視線を自分の身体に落とすと、あからさまに朱夏から顔を背けた。
そんなユウの態度に少し傷ついていると、ナスル姫が振り返って、朱夏を呼んだ。

『朱夏! この人を、連れて行って!』

ユウには何故か避けられているようなので、あまり近くに行くのは躊躇われたが、ナスル姫の命令では仕方ない。
朱夏が広場に降りていくと、ユウは首の筋が違うんじゃないかと思うほどに、朱夏から頑なに顔を背ける。

ちらりと目だけを動かして、俯いてしまった朱夏を見たユウは、他に聞こえないぐらい小さな声で、ぽつりと呟いた。

『・・・・・・汚れてるんだよ。恥ずかしいだろ』

拗ねたように言うユウは、自分で言うように相当汚れているためわからなかったが、珍しく赤くなっているようだ。
じっと見る朱夏から逃れるように、ユウは縄が解かれると、さっさと鬼の形相の皇太子に呼ばれて、ナスル姫とその場を去ってしまった。
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