楽園の炎
そして今、先程広場にいた重臣たちは、大広間に場所を移して集まっているというわけだ。
ちなみにユウは、あの後湯殿に直行したようだ。

首からかかった短剣を、落ち着きなく触っていた朱夏は、ふとナスル姫の言葉を思い出し、短剣をまじまじと眺めた。
よくよく見ると、確かに刃の部分に、紋様が見て取れる。

羽のある蛇---ククルカン皇家の紋章。

ククルカン皇帝の、第三皇子。
確か、皇子はそれぞれ、違う妃から産まれていた。
皇太子と第一皇女の母親が皇帝の正妃で、後は二人の側室の子供だ。

でも、側室は二人とも、亡くなっていたはず。
ということは、ユウの母親も亡くなっているということか。

ユウ・・・・・・そのような名前の皇子など、いただろうか。

朱夏がぐるぐると思いを巡らしていると、広間の扉が開き、アルファルド王とククルカンの皇族が、姿を現した。

「皆、待たせてすまない」

アルファルド王が、頭を下げる皆に言いながら入ってきた。
王に続いて、皇太子が渋い顔で入ってくる。
さらにその後ろから、きちんとククルカン式の衣装をまとったユウが続く。

初めに泉で会ったときに持っていたような、下衣と上衣に分かれた衣装だ。
皇族の衣装としては、さほど華美ではないが、薄い色の衣が、返ってユウの浅黒い肌を引き立てている。
腰で縛った銀糸の帯に、細身の剣を佩いた姿は、なるほど、確かにただの商人には見えない。
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