楽園の炎
思わず正装したユウの姿に見惚れてしまった朱夏に目を留めると、ユウはいきなり顔を輝かせて、朱夏のほうへ足を踏み出した。

「朱夏!」

ユウの本当の身分も忘れ、朱夏も駆け寄ろうとしたが、何故かユウは朱夏の二、三歩手前で立ち止まった。
そして、がばっと大きく両手を広げる。

「さぁ、思う存分、飛び込んでおいで!!」

「・・・・・・」

満面の笑みで両手を広げるユウに、朱夏の足が止まった。
ユウの軽いノリに、冷静さを取り戻す。

今すぐ広げられた腕の中に飛び込みたいが、まずここは、重臣の面前である。
加えてユウは、すでに商人ではない。
宗主国の皇子なのだ。
今までのように、軽々しく口を利くわけにはいかない。

朱夏は、また緩みそうになる涙腺を、何とか保たせ、ユウに向かって頭を下げた。

「ご、ご無事で何より・・・・・・」

震える声を絞り出した途端、涙がこぼれた。
下を向いているのを幸いに、朱夏はそのまま、唇を噛みしめてじっとしていた。
でも、涙はぽたぽたと床に落ちてしまう。

「何だ何だ。折角感動の再会を果たしたというのに、随分他人行儀じゃないか」

前方で、呆れたようなユウの声が聞こえた。
と思った途端、ふわりとユウの匂いに包まれる。
驚いた朱夏が顔を上げると、漆黒の瞳が、至近距離から見下ろしていた。
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