楽園の炎
「夕星とナスルは、同腹だ。共に我が父上の側室を母君として産まれた。が、身体がお弱かったのもあり、ナスルを産み落とすと同時に、身罷られた。その二人の面倒を見ていたのが、もう一人の側室、メイズ殿だったのだ。当時、アリンダは十歳か。元々母親依存の強い奴だったのか、メイズ殿が夕星とナスルにかかり切りになるのを、苦々しく思っていたようだ。確かに、メイズ殿もいけないのだ。私から見ても、行き過ぎに見えるほど、実の子であるアリンダよりも、夕星を可愛がった。私の姉上---第一皇女が、見かねて夕星とナスルを自分が引き取ってはどうかと提案したが、ちょうどその頃、姉上には縁談があった」

「加えて、未婚の皇女が側室の子供を引き取るというのは、あまり良くありませんしね。縁談にも、差し障りがありましょう」

各国の事情に詳しい炎駒の言葉に、皇太子は再び頷く。

「引き取っても、すぐに離ればなれになるわけだから、まだ小さいナスルには、可哀相なことだしな。しかも、メイズ殿が頑として二人を、というより夕星を、離さなかったのだ」

「随分、お子がお好きなかたなのですね」

訝しげな葵に、皇太子は首を振った。
不愉快そうに、眉間に皺が刻まれる。

「メイズ殿は、屈折したおかただった。実の子であるアリンダを顧みないということのみならず、夕星に、とんでもないことをしようとした」

皇太子が、言葉を切った。
ナスル姫に聞かせるべきか、悩んでいるようだ。
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