楽園の炎
「そうだな、それぐらいだ。でも、メイズ殿は恥知らずにも、夕星に身体の自由を奪う薬を盛り、その身を己のものにしようとした。そこに、アリンダが乱入したのだ。アリンダからしたら、それは衝撃だっただろう。年端もいかない弟の身体に、母親がのしかかっているのだからな。アリンダが激怒するのも、当然なのだが。・・・・・・アリンダの怒りは、母へは向かず、夕星に向いた。その場で、夕星を殺そうとした。夕星は薬を盛られて動けない。呆気なく刃の餌食になるところを、メイズ殿が身を挺して庇った」
「・・・・・・当然ですな。己の罪がわかっておられるかたなら、そうして散るほうが、潔(いさぎよ)い。どちらにしろ、そのようなことが公になれば、ご側室といえど、罰せられるでしょう。生きて恥を受けるぐらいなら、死して醜聞から逃れるほうが、マシなのでは?」
炎駒の言葉は、容赦がない。
皇太子は少し苦しそうに、笑みを作った。
「アリンダが母を斬った直後に、私は部屋に駆けつけた。少し前に、ナスルが泣きながら、メイズ殿がおかしいと私に訴えたからな。・・・・・・我が妹ながら、三歳のくせに鋭い洞察力には、驚かされたものだ」
少し笑って、皇太子はナスル姫の頭を撫でた。
「すぐに何があったのかはわかった。前々からメイズ殿の異常さは、私たちも気づいていたしな。だがまさか、あそこまでするとは、思っていなかった。甘かったのだな。夕星にとって不幸だったのは、身体は動かないが、意識ははっきりしていたことだ。お陰で、一部始終を己の目で見ることになった。まだ十歳だ。相当な傷を負っただろう。私が心配したとおり、夕星は、自分がアリンダに母殺しをさせたという思いを持っている。アリンダの母親の愛を独占していることも、ずっと負い目だったのだろう」
「・・・・・・当然ですな。己の罪がわかっておられるかたなら、そうして散るほうが、潔(いさぎよ)い。どちらにしろ、そのようなことが公になれば、ご側室といえど、罰せられるでしょう。生きて恥を受けるぐらいなら、死して醜聞から逃れるほうが、マシなのでは?」
炎駒の言葉は、容赦がない。
皇太子は少し苦しそうに、笑みを作った。
「アリンダが母を斬った直後に、私は部屋に駆けつけた。少し前に、ナスルが泣きながら、メイズ殿がおかしいと私に訴えたからな。・・・・・・我が妹ながら、三歳のくせに鋭い洞察力には、驚かされたものだ」
少し笑って、皇太子はナスル姫の頭を撫でた。
「すぐに何があったのかはわかった。前々からメイズ殿の異常さは、私たちも気づいていたしな。だがまさか、あそこまでするとは、思っていなかった。甘かったのだな。夕星にとって不幸だったのは、身体は動かないが、意識ははっきりしていたことだ。お陰で、一部始終を己の目で見ることになった。まだ十歳だ。相当な傷を負っただろう。私が心配したとおり、夕星は、自分がアリンダに母殺しをさせたという思いを持っている。アリンダの母親の愛を独占していることも、ずっと負い目だったのだろう」