楽園の炎
幼い頃から仲の良かったアルは、朱夏の立場が微妙に上がっても、特に態度を変えることなく接してくれる。

「わたくしが本気で朱夏様を飾り立てたら、そりゃあもう、その辺の姫君など、裸足で逃げ出す程の変身っぷりを、お見せできますのに」

「・・・・・・何か怖いわ」

呟いて廊下を歩く朱夏の足が、ぴたりと止まった。
前方には、また一人の侍女が佇んでいる。

侍女は朱夏の姿を認めると、ぐぐっと口角を上げた。
笑ったのかもしれないが、目は決して笑っていない。

「お帰りなさいませ。また森で、一人フルーツ食べ放題祭りを開催していたのですね。お衣装が、果汁で汚れてますわよ」

怒っているのか、ひくひくと頬を引き攣らせながら言う侍女は、アルよりも随分歳を取っている。
年齢的には、朱夏の祖母といったところか。

実際、彼女は朱夏の祖母的な立場である。
アルと同様、気を遣わず朱夏と接してくれる有り難い存在だが、アルよりもずっと昔から朱夏を見てきた分、朱夏も頭が上がらない。
どの侍女にも見放された朱夏の世話を、唯一見続けてくれたのが、この侍女頭でもある桂枝(ケイシ)である。
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