楽園の炎
「夕星殿は、面白いかただねぇ」

不意に葵が呟いた。

「市で店を開いたり、一人で水浴びしてみたり。何かさ、朱夏と夕星殿が組んだら、とんでもないことしでかしそうで、不安だよ」

ふぅ、と息をつく葵に、朱夏はどういう意味よ、と唇を尖らせる。
が、葵の軽い言い方に、少し気が楽になった。

「葵がナスル姫と結婚したら、繋がりは消えないわよね。ナスル姫も、結構行動派のようだから、葵も退屈しないんじゃない?」

「それなんだけどさぁ・・・・・・」

葵が、ざっと辺りを見回す。
誰もいないのを確かめてから、葵は朱夏を見つめた。

「ナスル姫は、確かに可愛いよ。ククルカン皇女なのに、変に気取ったところもないし、とても良い子だ。でも、ちょっと朱夏に似てるよね」

「そう? あたし、あんなに見るからにお嬢さんじゃないよ?」

首を傾げる朱夏に、葵はあはは、と笑った後、朱夏に睨まれ、慌てて謝った。

「ごめんごめん。そうじゃないよ。何て言うか、元気いっぱいなところとか。あれ? もしかして、そこだけかな」

朱夏の手が振りかぶられる。
葵はまた、慌てて上体を避けながら、顔の前でぶんぶんと手を振った。

「もうっ。何が言いたいのよ」

頬を膨らます朱夏に、葵は困ったように頭を掻いた。

「何となくさ、僕はナスル姫に、少しでも朱夏を求めてるんじゃないかって思うんだ」

再び首を傾げる朱夏に、葵は続ける。
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