楽園の炎
ここまできて、憂杏はやっと、夕星の言葉の中の違和感に気づいた。
一介の商人にとっては、雲の上の存在の、アルファルド王の側近である炎駒に対する敬称も、兄弟を『兄上』と呼ぶところも、何より皇帝陛下の姫君を呼び捨てにしているところも、全てが『商人』にはあり得ない。

「ユウ・・・・・・。お前、もしかして・・・・・・」

ナスル姫を呼び捨てにできる人間となれば、限られてくる。
すぐに憂杏は気づいたようだ。
が、夕星は、にやっと笑って憂杏の言葉を遮った。

「俺はここにいる限り、ただの商人だぜ。憂杏も、俺の正体がわかったところでそう気にはしないと思うが、ま、面倒なことにはなりたくないだろ。だから、とりあえずは知らないことにしといたほうがいい」

ぽかんとしていた憂杏だが、身体の力を抜くように息をつくと、夕星と同じように、にやりと笑った。

「そうだな。今更かしこまった対応を求められても困るしな。俺がかしこまったらおかしいって、ナスル姫にも言われたぜ」

ばしんと夕星の肩を叩き、憂杏は笑った。
ひとしきり笑った後、憂杏は一人、納得したように、うんうんと頷く。

「そうかぁ。ユウ・・・・・・なるほどな。偽名ではあるが、まるっきりの作り名ではないわけか。しかし、朱夏がねぇ・・・・・・」

にやにやと朱夏に笑いかける憂杏は、さすがに各国の事情に通じているだけあり、ククルカン皇族の名前ぐらいは、頭に入っているようだ。
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