楽園の炎
「妹はまともな趣味だが、兄貴の趣味は、一風変わっているようだな」

朱夏はすかさず、傍に転がっていた木の実を投げつけた。
憂杏が笑いながら、ひょいと避ける。

「そうかね。葵王だって、朱夏のことが好きだったんだろ。可愛い奴だぜ」

しれっと言う夕星に、朱夏は赤くなる。
意外なことに、憂杏も頷いた。

「まぁな。可愛いことは可愛いが、がさつだぜ。そういうところが、ナスル姫との決定的な違いだよなぁ」

「何よっ。さっきからナスル姫を褒めてばっかり。そういや憂杏、最近ずっとナスル姫のお相手をしてるそうじゃない?」

ああ、と憂杏は一気にスープを飲み干した。

「そうそう。初めは朱夏みたいだと思ったが、すぐにそれはナスル姫に失礼だと思ったよ」

また朱夏の手から、木の実が飛ぶ。

「朱夏よりも、何というか。随分芯が細いと思う。ぴしっと芯は通ってるんだが、朱夏みたいに、ぶっとくない。支えてやらにゃ、折れそうなんだよな」

「ほおぉ、確かに。幼い頃より、一人で立ってきた奴だからな。頼れる人間が見つかれば、全面的に頼りたい気持ちは、常にあろうな。葵王はあいつを、支えきれるかな?」

夕星が、感心したように言う。
憂杏の目の確かさに感心したのだろうが、その憂杏は妙な顔をして夕星を見た。

「・・・・・・お前のその、たまにジジ臭い喋り方は、身分からくるものだったんだなぁ」

憂杏は二十八だ。
七つも上の人間に‘ジジ臭い’と言われ、夕星は少なからずショックを受けた。
そんな夕星に気づかず、憂杏は店の品が入っている箱を漁り出す。

「そういやお前も、皇家のものを商品の中に入れておくなよ。売っ払うつもりだったのか?」

思い出したように言う憂杏に、夕星も箱を覗き込んだ。
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