楽園の炎
「ああ、あのメダルか。持っておくのが面倒で、でもそれだけ別の場所に置いておいたら忘れそうだし、そのほうが盗まれそうだろ。木は森に隠せっていうじゃないか。ああっ! そうだ! 宝剣、どうしようかな」

いきなり夕星が、覗いていた箱から顔を上げて叫んだ。
憂杏が首を傾げる。

「宝剣って、なくしたって言ってたやつ?」

朱夏の言葉に、夕星が頷き、憂杏が驚いた顔になる。

「なくした? 宝剣ってまさか、例の、ククルカン皇家の宝剣か?」

なくした本人の夕星よりも、憂杏のほうが驚いている。
朱夏は何のことやらわからず、憂杏と夕星を交互に見た。

頷く夕星に、憂杏は脱力したように、頭を抱える。

「どーぉするんだ。あれはあくまで、形式的なものなのか? 宝剣を贈られなくても、妃にはなれるのか?」

「え、あたし?」

どうも自分に関係することだと気づき、朱夏は驚いて憂杏を見た。
そういえば、皇太子も『宝剣は贈ったか』とか言っていたような。
話の流れから考えるに、どうやらククルカン皇家では、見初めた者に、皇家の宝剣を贈る倣(なら)わしがあるようだ。
夕星は、さして深刻そうでもなく、軽く首を傾げた。

「どうかな。一応もう一回、捜してみるか。といっても、水の中だからなぁ・・・・・・」

「もしかして、一番初めに会ったときに、泉の中で捜してたのが、宝剣?」

そう、と笑って、夕星が頷く。

「泉に落としたのかよ・・・・・・。何て奴だ。そりゃ見つからねぇだろ」

心底呆れたように、憂杏は肩を落とした。
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