楽園の炎
夕刻、王宮に帰った朱夏は、宝瓶宮の前で夕星と別れた。
扉を開けると、居間に葵の姿がある。

「どうしたの?」

朱夏は葵の向かい側に座りながら、声をかけた。
アルが、朱夏にもお茶を入れてくれる。

葵は疲れたように、椅子の背に身体を預けて、おもむろに口を開いた。

「実はさぁ・・・・・・」

言いよどみながら、ちらりとアルを見る。
人払いして欲しいのかな、と思い、朱夏がアルに顔を向けると、それを葵が制した。

「いや、いいよ。アルも僕らと同じ年頃だし、参考に意見を聞きたい。実はさっきね、皇太子殿下が、お見合いの成果を聞いてきたんだ」

それのどこに、朱夏やアルの意見が必要なのだろう。
アルも、きょとんとしている。

「いやね、それだけなら、別におかしくないよ。でも、何か・・・・・・。僕は思ったとおり、お可愛らしい姫君だし、今回のお話も、姫君のお心が決まれば進めていただいて構いません、と言ったんだよ。断れる立場にもないけど、嘘はついてないよ。でも何かね、皇太子殿下は、僕が断りたいなら断っても、全然構いませんよっていう態度なんだよね」

「・・・・・・良かったじゃない」

「いやまぁ、そうなんだけど。何だったら、断ってくれ! とまでは言わないまでも、もしかして断って欲しいのかなって思うんだよ」
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