楽園の炎
朱夏は首を傾げた。
少し考えて、皇太子がナスル姫にお見合いのことを聞いたとき、ナスル姫の顔が曇ったように見えたのを思い出す。

ちら、と葵の顔を窺ってみる。
ナスル姫は、葵のどこが気に入らないんだろう?
世継ぎの王子だし、見た目も綺麗だ。

夜這いをかけられたり、大好きな夕星を殺そうとしたりしたが、それでも朱夏は、葵のことが好きだ。
全て、全く通らない理由ではないし、どちらかというと、理にかなっている。
己の気持ちだけで、法を無視してごり押ししたわけではないのだ。
そんな無茶苦茶なことを、する人でもない。

基本的に優しいし、頭も良い。

う~ん、と朱夏は考える。
あの可愛らしいナスル姫と葵が並べば、絵的にも非常に良い感じだと思うのだが。

「皇太子様が、葵を気に入らないのかな?」

ぽつりと呟いた朱夏に、アルが慌てる。

「な、何てこと言うんですか。わたくしは、たまたまお見かけしただけですけど、葵王様と皇太子様は、それは打ち解けていらっしゃいましたよ。無理してらっしゃる風では、ありませんでした」

一気に言ってから、アルは葵に、出過ぎたことを申しました、と頭を下げる。
葵はそんなアルに笑いかけた。

「良いよ、ありがとう。うん、僕ももしかして、僕が皇太子殿下に嫌われてるのかな、と思ったんだけど。どうも、そうでもないような。やたらと気を遣われるんだよ」

「あっちから、断られるんじゃない?」

朱夏様、ちょっと直球すぎます、と、アルが小声で突っ込む。
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