楽園の炎
朱夏は遠回しな言い方を考えてみたが、残念ながら思いつかない。
仕方ないので、思ったままを言ってみた。

「今回のお見合いは、ナスル姫側から申し込んできたわけでしょ? でも、そのわりに、向こうさんが断りたいと思ってしまったら、ちょっと気まずいんじゃない? 立場は向こうのほうが強いけど、皇太子殿下も皇帝陛下も、葵を気に入ってたら、葵の機嫌は損ねたくないじゃない。もし葵がナスル姫を好いちゃったら、葵を傷つけることになるでしょ。それを、避けようとしてくれてるんじゃないかしら」

「そこまで考えてくれてるかな? 大体、会いたいって言ってくれてたナスル姫が、実際会ったら違うかったって思ったのだったら、どっちにしろ僕にとっては、微妙にショックだよ」

「そうじゃないかもよ。もしかしたら、ナスル姫に、お好きなかたができたのかも」

「え、そうなの?」

葵が身を乗り出す。
その横で、アルは不思議そうに首を捻った。

「でも、この国の人間には、そうお会いする機会もなかったのではないですか? 葵王様以外にお会いしたかたで、ナスル姫様のお心を掴むようなかたが、いるでしょうか」

他の者に対して、何気に失礼なことを言うアルに、朱夏もう~む、と首を捻る。

「そうねぇ。ナスル姫様がお会いになった人なんて、知れてるものね。ちらっと会った兵士とか? いやいや、一目惚れしたとしたら、もうちょっと近づくように、努力するんじゃないかしら。葵を断るほどだったら、相当強い想いでしょ? 期限も限られてるわけだし、もっと頑張ると思う」

「そうだね。僕が見たところ、そんな特別親しい者も、いないみたいだし。よく一緒にいるのは、やっぱりそれなりの人だよ。ここに来てから会ったような人に、ナスル姫が惹かれるような者は・・・・・・いないと思うなぁ」
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