楽園の炎
大臣の娘のくせに、朱夏は宮殿の内宮に部屋をもらうのを嫌がった。
大臣の娘といえば貴族だし、れっきとした姫君なので、警備の厳しい宮殿の内側に部屋を構えるのが普通だ。
だが朱夏は、その警備が煩わしく思え、自身も兵士に属していることを理由に、自分の部屋は、宮殿の外宮に決めてしまった。

が、外宮は内宮よりも、格段に人の出入りは激しい。
一応葵付きなので、外宮とはいえ、内宮と外宮の中間辺りだし、王宮内ではあるので、それなりの警備は敷かれているが、とりあえず念のため、朱夏は簡単な罠を、部屋の入り口に仕掛けているのだ。

「何か、王宮内がざわついてない? 何かあったっけ」

アルと桂枝も、朱夏を待ち構えていたようだ。
夕方とはいえ、まだ日も高い。
心配される時刻でもない。

言いながら、朱夏は部屋の扉を開け、身を屈めると、足元の紐を引っかけないように注意しながら、中に入った。

「今日は木槌が落ちてくるから、念のため、屈んだほうがいいわよ」

後ろを振り返って言う朱夏に倣って、アルと桂枝も、同じように屈んで部屋に入った。

「全く、内宮にお部屋をいただけば、こんな罠など、仕掛けなくてもいいものを」

「だって、内宮なんて、夜は外に出られないじゃない。門限はあるしさ。罠はほら、一応よ。女の子だから、念のため」

「女の子だからという意識があるなら、夜にお一人でちょろちょろなさらないでくださいよ」

「警備よ、警備」
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