楽園の炎
「だって、ユウがそれでいいって言うんだもの。あたしも気をつけてたんだけど、ちゃんとした言葉遣いにしたら、ユウが怒るのよ」

炎駒は深く眉間に皺を刻んで黙り込んだ。
絞り出すように呟く。

「まぁ・・・・・・。気持ちはわかるがな」

「炎駒様も、奥様に何度も普通に喋るよう、仰ってましたものね」

桂枝が、朱夏に熱いスープの入った器を渡しながら言った。

これ、と炎駒が、桂枝を軽く睨む。
朱夏は受け取った器を持ったまま、興味津々な目で父を見た。

「奥様は、歴史はありますが、下級貴族のお嬢様でしたから。最上流貴族の炎駒様と、なかなか対等になど、付き合えなかったのですよ」

「・・・・・・身分違いの恋をしてしまうのは、遺伝なのだろうか。いやでも、お前は王族に嫁ぐに、不足ない身分なのだぞ。うん」

一人うんうんと頷く炎駒に、朱夏は息をついて、スープを口に運んだ。

「あたしの今の身分も、父上と母上がお互い頑張って乗り越えられたから、手にすることのできたものなのですね」

「全く障害がないまでには、してやれなかったがな。しかし考えてみれば、だんだんと身分が高くなっておるな。お前の子供は、王位も望める地位ではないか」

ふと思いついたように言う炎駒に、朱夏は、ぶっとスープを吹き出しそうになる。
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