楽園の炎
「あのぉ。憂杏は、二十八ですよ?」

恐る恐る口にした朱夏に、ナスル姫はトマトのように真っ赤になった。
同時に、がっちゃんと姫の手からカップが離れ、机の上に倒れる。
幸いお茶はカップの三分の一ほどに減っていたため、大した量はこぼれなかった。

「あああぁ・・・・・・。何でわかったの?」

真っ赤なまま両手で頬を包み、恥ずかしさのためか、目を潤ませて、ナスル姫は朱夏を見た。
その態度がまた、非常に可愛らしく、だからこそ朱夏は、頭を抱えた。

「本当に、憂杏なんですか? 確かに良い人ではありますが、ナスル姫様からしたら、あのような者、ただのむさ苦しいおっさんじゃないですか?」

難しい顔のまま、こぼれたお茶を拭く朱夏に、ナスル姫は胸の前で拳を握り、ぶんぶんと首を振る。

「そんなことないわ! とってもとっても頼りがいがあって、素敵なかただわ! ぱっと見は粗野だけど、わたくしの失敗したお菓子も美味しいって食べてくれるし、必要であれば、身分に関係なく叱ってくれるもの。あのかたを知ってしまったら、申し訳ないけど葵王様は、どうしても頼りなく見えてしまうの。わたくしは、見るからに頼りになる憂杏がいいの!」

何てことだ、と、朱夏のほうが項垂れてしまう。
これは聞いた人間全てが、我が耳を疑うだろうな、と思わずにはいられない。

「それ、皇太子殿下に仰いました?」

「ううん。だって、周りから固めるようなことは、したくないの。でも、お見合いの話は、なかったことにして欲しいとは言ったわ。気になるかたがいるから、とも言ったの。それだけ」

だから皇太子が、葵の気持ちを確かめようとしたのか、と朱夏は納得した。
しかし、相手が相手なだけに、誰に相談すればいいものやら。
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