楽園の炎
「うう~ん。また、えらい人を好きになったものですねぇ。ユウ・・・・・・夕星様には、相談できそうですけど」

「お兄様かぁ・・・・・・。そういえば、憂杏はお兄様と親しいのですって?」

「まぁ、憂杏が親しいのは、商人・ユウですけどね。でも昨日、全て話しましたよ。憂杏も、特に気にしてないですし。あ、そうだ」

朱夏はふと思い出し、ナスル姫に深々と頭を下げた。

「ナスル姫様には、本当に感謝しております。夕星様が助け出されるまで、何かと気にかけていただいて、本当にありがとうございました。嬉しかったです」

ナスル姫は、きょとんとしていたが、すぐににこりと微笑んだ。

「ああ、そういえば、そんなこともあったわね。そうそう、そのお陰で、わたくしも憂杏と親しくなれたわけだから、お互い様よ。ありがとう」

だとしたら、返って余計なことになってしまったのでは、と、ちらりと思ったが、朱夏は曖昧に微笑んだ。

「ではとりあえず、憂杏のことは、こちらからも探りを入れてみます。葵王にも、あたしから言っておきましょうか?」

お茶を飲みながら言う朱夏に、ナスル姫は少し慌てたように、手を軽く振った。

「あの、憂杏のことが好きだとは、言わないでよ」

「ええ。もしかしたら、他に好きな人ができたのかも、とは言ってますから。あ、でも、ちゃんと言ったほうがいいかも。葵王も憂杏のことは知ってますし、人柄も認めてますから、変に隠すよりは、言ってしまったほうがいいような気もします。ナスル姫様と憂杏がご結婚となれば、どうせわかってしまうことですし」

「ま、け、結婚だなんて・・・・・・。でも、そうなるといいわね」

頬を染めながらも、ナスル姫は夢見るようにうっとりとする。
そのつぶらな瞳に映っているのが、あのまばらに顎髭を生やしたごついおっさんだとは。

何となく、素直に応援できない微妙な気持ちで、朱夏は部屋を出た。
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