楽園の炎
何だ、と思うと同時に、そういやまだ、ちゃんと返事してないな、と気づく。
ナスル姫に憂杏のことを相談されてから、衝撃が大きかったこともあり、そっちばかり考えていた。

だがそんなことは知らない憂杏は、朱夏の反応に、訝しげな顔をする。

「何だ? 乗り気じゃないのか?」

「そんなことないよ。いや、それはそれで、うん、問題はないの。そうそう、そういや、憂杏はどうなのよ? いつまで独り身でいる気なの?」

多少強引に、話の矛先を憂杏に向ける。
そこを探らねばならない。

「俺かぁ? 俺はなぁ、風来坊だからなぁ。今の暮らしが気に入ってるし、一所(ひとところ)に留まることは・・・・・・今のところ、考えられないしなぁ。そんな男に嫁ぐ物好きも、そういないだろ?」

「でもさぁ、桂枝も、孫の顔とか、見たいんじゃない? 桂枝だって歳なんだから、そろそろアルファルドに帰ってきたほうが、いいんじゃない?」

そうだねぇ、と気のない返事をし、憂杏は、ぽんと朱夏の頭を叩いた。

「何だよ。母上みたいなこと言うなぁ。お前も家庭を持つことになって、母親の気分になってるのか?」

「そんなんじゃないわよ。あたしのことはいいの。憂杏には、何でそういう人がいないのかなって思っただけ」

「おや、言ってくれるね。こう見えても、色町ではもてるんだぜ」

自慢なんだか何なんだか。
朱夏は、ふぅ、とまた息をつく。

憂杏は、いつも飄々としていて、捉えどころがない。
元々物事を遠回しに探るのは苦手だ。

朱夏はやはり、夕星に相談しようと心に決めた。
< 211 / 811 >

この作品をシェア

pagetop