楽園の炎
「あのさぁ・・・・・・」

皇太子の部屋を出て、朱夏は前を歩く夕星の背に声をかけた。
夕星が立ち止まり、振り返る。

「えっと・・・・・・。あのー、ナスル姫のことなんだけど・・・・・・」

もごもごと言いにくそうにしている朱夏に、夕星はきょろ、と辺りを見渡し、内宮と外宮の間にある大きな庭に降りた。
そのまま、先にある四阿(あずまや)に向かう。
朱夏も、夕星の後を追った。

「ユウはさ、どこまで聞いたの?」

ててて、と小走りで追いながら言う朱夏の手を取りながら、夕星はちら、と朱夏を見る。

「どこまでって?」

「えーっと、ナスル姫が、お見合いを断りたいっていうことの・・・・・・理由とか」

繋がれた手を握り返して、朱夏は夕星を見上げた。

「理由ねぇ・・・・・・。それを、言いたかったのかな」

小さな橋を渡り、池に張り出した四阿に入ると、夕星は壁一面にぐるりとついている椅子に腰掛けた。
朱夏も横に座り、何気なく池に目をやる。

五角形の角ごとに、屋根を支える柱があるだけで、四阿は吹き抜けだ。
温暖なアルファルドでも、こういうところだと、涼しく過ごせる。
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