楽園の炎
「葵王様に、見合いの中止が伝えられた」

夕餉を食べながら、炎駒は前に座る朱夏に告げた。
朱夏は肉を切り分けながら、そうですか、と答える。

「まぁ。葵王様の、どこがお気に召さなかったのでしょう」

アルが持ってきた焼きたてのパンを、机の籠に盛りながら、桂枝が信じられないといったように言う。

「そういうわけじゃないのよ。ただ、ナスル姫様には、もっと年上の、頼りがいがある人のほうが、合うんだと思う」

パンの上に小さくした肉を乗せ、ぱくりと口に入れながら、朱夏が言った。
炎駒はスープを飲みながら、片眉を上げる。

「ほぅ? 何故そう思う?」

「ユウもそう言ってましたし、あたしもそうかなって。ナスル姫様からも、葵が気に入らないわけじゃないって、聞いてますし」

「まぁまぁ。葵王様だって、いざとなれば頼りになるでしょうに。なんとまぁ、もったいない・・・・・・」

心底残念そうに言う桂枝に、それだけじゃないからねぇ、と内心思いつつ、朱夏は黙ってもぐもぐとパンを咀嚼した。

「お前はナスル姫様と、仲が良かったな」

何か含んだような言葉に、朱夏は父を見た。
そういえば、昨日炎駒は帰ってくるなり、憂杏のことを桂枝に聞いていた。
もしかして、あの時点で炎駒は、ナスル姫が憂杏に惹かれていると、知っていたのではないか。
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