楽園の炎
一方朱夏は、夕星に連れられて、星見の丘まで来ていた。
そこには、頭痛の種が待ち構えていた。

「おー、相変わらず、仲良く相乗りか。ほれ、この辺りでどうだ? 今は南部の商人が来てるから、良い物が入ってるぜ」

言いながら憂杏は、大きな敷物の上に、反物を並べていく。

「へぇ、こりゃ上物だな。この色なんか、似合うんじゃないか?」

「あたしのなの?」

市に行く用事があるが、皇子のままでは行けないので、憂杏と星見の丘で待ち合わせている、とは聞いていたが、どうやら買い物は、朱夏のもののようだ。

初めのように、商人のふりをして行けばいいのでは、と思ったが、それだと買う物と格好が釣り合わん、と言うのだ。
よくわからないままついてきたが、確かに憂杏が用意したものは、どれもかなり上等なものばかりだ。

「う~ん。やっぱり、あんまり女性らしいものよりは、さっぱりした感じのもののほうが似合うかなぁ」

「見慣れてないってのも、あるだろうがなぁ。でもそうだな、ふりふりふわふわなものは、似合わないと思うな」

夕星と憂杏が、反物を朱夏にあてがいながら、意見を交わす。
身分のわりに、あまり上等なものを身につけない朱夏は、うっかり触ったら汚しそうだと、身体が硬くなりそうな美しい布地だ。
< 229 / 811 >

この作品をシェア

pagetop