楽園の炎
「ねぇ。こんな良い物、どうするの」

「朱夏の婚礼衣装だよ」

さらっと言われ、固まっていた身体が、さらに固まる。
夕星は、ふっと目を細め、朱夏の頭を撫でた。

「一応だよ。感じだけでも掴んでおこうと思って。大体のことを決めておけば、朱夏が俺の求愛を受けてくれれば、すぐに仕立てにかかってもらえるし。断りたいなら、憂杏にそう言えばいいし」

「こ、断るだなんて、そんな・・・・・・」

夕星の求愛自体は、この上なく嬉しいのだ。
反射的に言い、朱夏はもじもじと俯いた。

「そうだよなぁ。何と言っても、この朱夏が見る影もなくやつれるほど想う奴なんて、お前以外に現れんだろうしなぁ」

にやにやと、憂杏が言いながら、朱夏の頭をぐりぐり撫でる。

「そういや朱夏。まだ体調、戻ってないんじゃないの? 大丈夫か?」

「大丈夫。食欲も戻ったし」

夕星の心遣いが嬉しくて、朱夏はそろ、と身体を夕星に近づけた。
ちょっと前までは、こういう扱いがひたすら恥ずかしかったが、今は慣れたのか、純粋に嬉しい。
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