楽園の炎
「そだ。ねぇ憂杏。これの鞘、作ってくれない? あ、すぐ作って。明日にでも材料持って、王宮に来てよ」
このところ、この短剣を触るのが癖になっている。
お陰で手は傷だらけだ。
憂杏はいきなりの命令にも似た要請に、ちょっと驚いたようだ。
「何だよ。今までは、市まで来るのも、喜んで来てたくせに。呼びつけるなんて、初めてじゃねぇか」
「ん~と。だって、ユウは市に行けないもの」
「お前が一人で来りゃいいじゃねぇか。ははぁ、そんなに離れたくないってか」
にやりと笑う憂杏に、朱夏は開きかけた口を閉じた。
とにかくナスル姫と憂杏をよく会わせて、気持ちを決めてもらうのが手っ取り早い。
今回の来訪の用事は済んだわけだから、国に帰る日も、そう遠くないだろう。
「可愛いなぁ、朱夏は」
そんな朱夏の気持ちを知ってか知らずか、夕星が後ろから朱夏を抱きしめる。
憂杏は胡乱な目になり、ハエを払うように、ひらひらと手を振った。
「はいはい、わかりましたよ。じゃあ明日伺うということで、よぅございますね、お姫様」
「ありがと。えっと、あたし、宝瓶宮にいるから、桂枝に言ってくれたら、入れると思う」
途端に憂杏は、渋い顔になる。
「内宮かよ。まぁ、宗主国の皇子の婚約者を、外宮には置いとけないか」
そうじゃないけど、と、ぼそぼそ言い、朱夏はちょっと考えた。
確かに内宮には、おいそれと入れない。
桂枝だって、上手く見つかるとは限らないのだ。
「じゃ、午前中の訓練のときに来てよ。そしたら稽古場にいるから」
「訓練? 兵士のか。面白そうだな、俺も出よう」
「はいはい。もうそんなにべったりだと、下手すると飽きるぜ。じゃ、明日な」
いい加減うんざりといったように、捨て台詞を残し、憂杏はよいしょ、と反物を抱えて手を振った。
このところ、この短剣を触るのが癖になっている。
お陰で手は傷だらけだ。
憂杏はいきなりの命令にも似た要請に、ちょっと驚いたようだ。
「何だよ。今までは、市まで来るのも、喜んで来てたくせに。呼びつけるなんて、初めてじゃねぇか」
「ん~と。だって、ユウは市に行けないもの」
「お前が一人で来りゃいいじゃねぇか。ははぁ、そんなに離れたくないってか」
にやりと笑う憂杏に、朱夏は開きかけた口を閉じた。
とにかくナスル姫と憂杏をよく会わせて、気持ちを決めてもらうのが手っ取り早い。
今回の来訪の用事は済んだわけだから、国に帰る日も、そう遠くないだろう。
「可愛いなぁ、朱夏は」
そんな朱夏の気持ちを知ってか知らずか、夕星が後ろから朱夏を抱きしめる。
憂杏は胡乱な目になり、ハエを払うように、ひらひらと手を振った。
「はいはい、わかりましたよ。じゃあ明日伺うということで、よぅございますね、お姫様」
「ありがと。えっと、あたし、宝瓶宮にいるから、桂枝に言ってくれたら、入れると思う」
途端に憂杏は、渋い顔になる。
「内宮かよ。まぁ、宗主国の皇子の婚約者を、外宮には置いとけないか」
そうじゃないけど、と、ぼそぼそ言い、朱夏はちょっと考えた。
確かに内宮には、おいそれと入れない。
桂枝だって、上手く見つかるとは限らないのだ。
「じゃ、午前中の訓練のときに来てよ。そしたら稽古場にいるから」
「訓練? 兵士のか。面白そうだな、俺も出よう」
「はいはい。もうそんなにべったりだと、下手すると飽きるぜ。じゃ、明日な」
いい加減うんざりといったように、捨て台詞を残し、憂杏はよいしょ、と反物を抱えて手を振った。